扉はからんからん、とドアベルを鳴らし依頼人の来訪を告げる。重い扉を眉を寄せながら押し、来店した依頼人は骨董になんて興味もなさそうな20前後の若い女性だった。
「あの、ここって田上骨董店であってます?」
女性は扉を開け切らずに訝しげに質問する。
店員のような少年がキラキラと顔を輝かせる。
「そうです!その通りです!ここが絵画専門の田上骨董店です!店長をお呼びしますので!」
しばしお待ちをー!と言うと店の奥に消えていった。奥からは「てーーーんちょーーーーー!」という大声とともに階段を駆け上がる音がする。
「…大丈夫、なのかしら」
女性─小里真奈は店内に入ったことをやや後悔する。
(この店、胡散臭すぎる。)
扉を背に真奈は店内を見渡す。
真奈の目の前にはカウンター、その上には古そうなパソコン、カウンター横にはやや萎びている観葉植物、足元にはペタペタのマット、窓際には二人がけのソファが二つ、古そうな本がぎゅうぎゅう詰めにされている本棚が所狭しに置いてある。
よく掃除をされているのか埃っぽくもカビ臭くもないがどこかごちゃごちゃとした印象を真奈は感じ、また本棚のせいか圧迫感を感じるほどで、真奈は不信感を募らせる。
真奈が眉間にしわを寄せて帰ろうか悩んでいると奥からこの店に似つかわしくない派手な男が出てきた。
「随分お待たせしました。そんなところではなんでしょう、こちらへどうぞ」
男は長そうな金髪を後頸部でまとめているようで、男が歩くたびに揺れる髪は光を目一杯集めたようにキラキラとして見えた。
「お客様?」と声を掛けられた真奈はやっと自分がその髪に見惚れていたことに気付いた。
「あ、や、別に…大丈夫です、」
真奈は気恥ずかしくなり急いでソファに腰掛ける。
「店に入って驚いたんじゃないですか?本ばかりの店なので…片付けてはいるんですけどねえ、なにせ捨てられない性分で。」
増えることはあってもへることがないんです、と男は笑った。笑った、といっても大きな丸い眼鏡が男の目元を反射で隠しており口角が上がっていただけだった。真奈はそうなんですか、と裏返りそうになる声を必死に抑える。
カチャ、と音がして真奈が隣を見ると大声で階段を駆け上がっていった少年が紅茶を入れたカップを置いていた。
「紅茶好きそうだったんで紅茶入れたんですけど、大丈夫でした?」
「そういうことはちゃんと本人に聞けっていつもいってるだろう」
「いやでもほら、俺これで間違ったことないですし」
大丈夫ですよね?という声が聞こえてきそうな目で少年は真奈の方を向く。真奈は少し笑って「紅茶、大好きよ」と答えた。
少年はばっと男の方を向き、ほら!と表情を輝かせた。男は溜息をひとつすると真奈に目を向けた。
「…それで、来店した理由をお聞かせ願ってもいいでしょうか?」
男はすっと目に真剣さを乗せる。
真奈は少しばつの悪そうな顔で話し出す。
「絵画の鑑定を、依頼したいんです。」